陰毛処理 今日このごろは外来で毎日見ない日がないくらいありふれた 陰毛処理をした人たち
10年以上まえ、年に数人、陰毛処理をしている20代の若い人たちがいて 私は気になった。陰毛を、すべて あるいは膣周囲にかけて処理している。理由を問えば、つきあっている彼からいわれて不承不承、やっているという。
それがいまは年齢層が広まった。中高齢のひともやっている 加齢すると なにもしなくても陰毛は寂しくなる(減る)のだが,,,。自分で剃ったり、老いも若きも数十万かけてエステに通ったりしている。
外陰の皮膚はからだの他の部分とは異なる。薄いのだ。直下の脂肪組織が薄い皮膚によっておおわれ、ふわふわした大陰唇とデリケートな小陰唇粘膜に続いている。陰毛をなくしてしまったあと、ひりひりした外陰部の皮膚を目にするたび私は悲しくなる。じっさい、接触性皮膚炎などのトラブルで来院する患者さんも多いのだ。とくにこの頃は外出自粛が関係してか、多い。
陰毛は、よく、桃やりんごにかけてあるネットと同じ役割をはたす。デリケートな皮膚を保護するのだ。
そして薄くても空気の層ができるので蒸れの予防にもなる。陰毛のせいで蒸れるというのは違うのではないか。Gパン、スキニーのズボンやガードルなど、しめつける衣服のために蒸れているのではないだろうか。素足でスニーカーを履くのと、薄いストッキングを一枚はいて履くのと比較してみると、ストッキングを履いているほうが蒸れない。それと同じである。
手足の脱毛は、ひとの目にふれる場所の処理である。それに対して外陰部の脱毛は意味がちがうと思う。
2013年9月22日号の婦人公論(中央公論新社)で林真理子・壇蜜両氏の対談記事があった。記事のなかで壇蜜氏は、彼女自身が外陰脱毛したことを明らかにしている。林氏の「昔、陰毛のない女性のことを、どうしようもない淫乱だというので男性から畏れられていたと言いますけれど」に壇蜜氏は「現代に置き換えると、淫乱というのは誰とでもできるという意味で、結果として女神さまになるという計算なのです」と返答している。言葉の選択がすごい。陰部脱毛の意味 彼女の言うことだから間違いはないのだろう。
おかしいなと思うのは、介護をうけるために陰毛を無くする、という意見である。自分が将来介護を受けることを考え、まえもって無くしておくというのだ。それでは今現在の介護現場で、そのような声が上がっているというのだろうか?陰毛がないほうが介護しやすいから処理しておくべきだという意見が出ているのだろうか??介護職に就く患者さんに聞いてみると、そんな話は聞いたことがない、あんまり関係ないと思う、という意見だ。私も高齢者施設に入所中の患者さんを診察することがあるけれど、同感である。
清潔のため陰毛処理を とエステで言われたと患者さんは言う。強い違和感を感じます。
外陰や膣は 口のなかと同じ 多くの菌が棲んでいる。皮膚や腸内も同様である。多様性のある菌叢(きんそう)のおかげで恒常性が保たれノーマルな環境が維持できている。陰毛を処理するかしないかで、清潔かどうかが決まるわけではないのである!
話は違うが、低用量ピルについて。
低用量ピルは 日本の高い承認ハードルを超えて避妊薬として認可されたのが1999年9月である。2008年には保険診療で用いる月経困難症治療薬としても認可された。
低用量ピルの連続服薬(数ヶ月、ピルを飲み続ける。年に数回、休薬して出血を起こす)について、2006年に海外の演者が日本でレクチャーしたものを私は聞いた。このレクチャー受講者は限られた産婦人科医師ではあったが、ピルを数ヶ月にわたって連続服薬することについて、14年前にすでに、国内の医師たちが話をきかせてもらっている。
なのに日本でのピル服薬については遅々として進んでいない。連続服薬どころか、古典的なピル服薬(3週間のんで1週間休薬して出血を起こす)についても遅れている。日本では、ピルを使用可能な年齢の女性での使用率は3%からせいぜい5%だという。
いっぽう、陰毛脱毛はどうか。私が気に留めはじめたのが12年ほど前である。その後10年あまりであっという間に世間にゆきわたっている。この速さはどうだ。あきれてしまう。速さの理由は何か?それは脱毛業界の懸命さ、宣伝(コマーシャル)のすごさであると私は考えている。